ルームシェアフレンズ
9.

「内装もカッコイイです。宮地さんにピッタリ」
 運転席に座る宮地に視線を遣ると、かちあった瞬間にこりと微笑んでみせる。
「まぁ、古い形だけどな。サイドブレーキも足元じゃねぇし」
 トントン、と棒状に出張ったサイドブレーキを叩いて示した。
「さて、どこに行くか」
「人が少ないところで静かに話がしたいな」
 暫し逡巡し、十字路を右に曲がり、そのまま海の方へと向かった。

「人があんまり居ないんですね」
「あぁ、いつもは釣り人が一人二人いるんだけどな。潮が悪いのかもな」
 パワーウィンドウを下げると、急激に流入する湿った潮の香りが車内に充満する。比較的涼しい風ではあるものの、それが占める湿気の割合に顔を顰めた。
「湿っぽいな」
「海ですからね。あ、風で目が乾いた」
 刹那、目元を押さえた桜井に「大丈夫か?」と声を掛け、覗きこむ。と、近付いた腕をぐっと引き寄せた桜井は、歪めた口角を隠しもせず、へらり笑う。 「つっかまーえた」
 すーっと、なめらかなパワーウィンドウの稼動音で海風が妨げられ、車内は時折ざわつく波の音が届くのみとなった。
「宮地さん、しよ?」
「は? 誰かに見られt」
「大丈夫ですって。サンシェードとボクのひざ掛けで隠しますから」
「ひ、ひざ掛け?!」
 徐ろに取り出された薄い布を、運転席横の手すりに掛けると、カーテンのように外界から遮断される。もう一方は、岸壁だ。
「ほら、これで思う存分」
「で、でもさ、一応俺的新車だし、汚しt」
「宮地さん、汚すつもりですか? 何をして汚すつもりです? そんなに垂れ流すつもりなんですね」
 再び引き寄せた顔に齧りつくように口付ければ、貪るように舌を絡め合う。狭い車内というシチュエーションというだけで宮地はいつもにも増して胸の踊りを感じ、桜井の首根に手を這わす。
 桜井は宮地に跨ると、座席のサイドに手を挿し入れ、リクライニングさせた。再び宮地の口内を貪りながら、彼の下半身に手の平を移動する。
「あぁあ、車の中だからですか? すっごい固い。今ラクにしてあげますからね」
 キスをしながら器用に宮地のデニムから器官を開放してやると桜井は、自分のチノパンをずり下げた。
「ねぇ宮地さん」
 後ろに中指を這わせ、そこを揉みほぐす。そのうち緩く、暖かくなったそこに、一本、二本と指を挿入した。耳に届く、水音。
「宮地さんがエロい事してるのを見ながら、ボク、オナニーしてみたいんです。いいでしょ?」
「はぁ、は? ンアッ......何言ってんの変態」
 指を少し曲げて弾力のある部分を擦るように刺激すれば、宮地は言葉を飲み込み、代わりに嬌声を垂れ流す。
「変態? ここをこんなにトロットロにしてる人に変態呼ばわりされたくないですよ、ふふふ」
 ポケットに伸ばされた手には、黒い布が握りしめられている。
「何だお前、生地屋か」
「いいコト、しましょ」
 再び宮地の顔に近付いた桜井は、唾液の一滴でも残さないぐらいに彼の口内を弄り、空いた手を宮地の後頭部へと回した。
「へ?! おい、何してんの、桜井?!」
 黒い布で、宮地の視界は瞬時に奪われる。素早く手首にも同じような布を巻かれてしまった。
「こうして目隠しすると、色んなトコが敏感になるんです」
 すっと近付いた体温は、唇をこじ開けて中へ入りこむ。光を感じている時よりも、唾液が絡まる小さい音を過敏に感じ取り、単なるキスでも身体の芯が熱くなるのを感じ宮地は、身悶えした。
「ね、すっごいエッチな音がするでしょ?」
「お前、こういうネタはどこから仕入れるんだ?」
「ネットです」
「エロオタかよ」
 ビニールのようなものを切り裂く音に続いて、聞き慣れたゴム素材が弾ける音がする。
「おい、ちょっと待て、もう入れんの?」
「違いますよ。言ったでしょ? ボクは宮地さんのエッチなところを見ながら、オナニーがしたいんだって」


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