ルームシェアフレンズ
22.

「どうだ、調子は」
 自室よりも青みの強い木製のドアを押し、中へと踏み入れれば、冷房の過度に冷やりとした温度が心地よく、鼻から抜ける冷風に思わず呼吸を大きくする。
「宮地さん、熱い」
「こんなに部屋冷やしてて熱いなんて、相当だな」
 未だ上気したままの桜井の頬に手を伸ばし、寸での所でハッと我に返る。
 無意識に伸びる手が、決断を鈍らせる。我に返っただけ自分は成長しているという事か、そう思い至りその手を自分の首筋へと追いやった。
「触って、くれないんですか?」
 伸ばされた手が自分の頬を包む事を疑わなかった桜井は、仰向けた顔を僅かに傾げてみせる。返答に詰まる。理由は分からない。チョコを手に入れるためにキャンディを手放す事を勿体ぶる自分は随分と幼いな、とこめかみの辺りを掻いた。
 つと、掴んだ手の力は熱に苛まれているとは思えぬほどに強く、ベッドへと強く引き込まれれば桜井の胸に飛び込むように重なった。
「風邪が伝染らないようにしますから」
 不意に顔をあげようとすれば首元に回った腕で押さえつけられ、耳介を暖かな舌が這う。吐息混じりに甘咬みされると宮地は俄に身体を震わせた。その舌は耳孔へと滑り込み、わざとらしく水音を弾ませる。何者にも邪魔されない直接的な音は腰の辺りに痺れを与え、逃れようと藻掻くのだが、桜井は強い力で離そうとしない。
「なぁ桜井、もうこういうのやめようと思う」
「何でです?」
 まるで宮地がそう言い出すのを待ち侘びていたかのように、何の感情の変化も見せずに桜井は問うた。
「何でって、俺もそろそろ欲に溺れて生きるのやめよっかなって。あ、れ? 何してんのお前」
 手首を優しく撫でられているとばかり思っていたのだが、気づけば自由を奪われている。背を捻じり、背後に回った手首に視線を向ければ、白いフェイスタオルが固結びの結び目を作っていた。
「お前......」
 背に回した手はどうしたって身体の前方に移動する事ができず、足を絡められた状態から身体を起こす事ができない。手を伸ばした先にあった延長コードを手にすると桜井は、手早く宮地の片の足首と、背後に回った手首を結びつけた。そのまま仰向けに転がされる。片足は折り曲げたまま殆ど局部を丸出しの状態で、身動きがとれなくなる。
「何すんだよ腐れキノコ」
「すいません、ボクこうやって拘束する趣味はなかったんですけど、昨日ネットで写真みてたら興奮しちゃって、すいません!」
 そう言って怯えた表情を見せた刹那、口端をぐいっと歪ませ歪曲した笑みを作った。
「なーんて、嘘ですよ。最近宮地さんが構ってくれないから」
 いってきます、高尾と緑間の声がドア越しに響く。しかれども助けを求められるような状況にもなく、歯軋りをする。自由に動く片足をバタつかせ、ベッドから降りようとするが、今度は背後から引っ張られ、スチールのベッドへと拘束されてしまった。
「お前、抜かりねぇな」
「まさか風邪ひくなんて思ってませんでしたからね、ちょっと、疲れました」
 肩で息をしつつ桜井は、額から滲む汗をタオルで拭うと、場違いな程にさわやかな笑顔で言った。
「気持ちいい事しましょ、ね、宮地さん」

 熱感のこもる手の平で自由な右足首を強く掴まれ、完全に自由を失う。乳首を這いまわる舌は器用に、その中心を上下させ、刺激に呼応して宮地の身体が小刻みに震える。
「無理やりされても感じるんですね。宮地さんってホントにビッチ」
 強く摘まれ、顔が引き攣る。
「離せ」
 プツン、糸が切れるように急激に圧が消え、先端に痛みが走る。思わず喉の奥から呼気の塊が排出される。
「いってぇな、何すんだンッ!!!」
 性急に差し込まれた人差し指の外圧に息を詰める。
「ま......て......何でそんなに乱暴に......すんだ」
「だって、何時もと一緒じゃ楽しくないじゃないですか。痛がってるところとか、嫌がってる宮地さんも、たまには見てみたいんです」
 「とは言え」、桜井は少し傾げた顔から強い瞳を宮地へとぶつけ、続けた。
「痛くしても、宮地さんはビッチだから感じちゃうんですよね、あはは」
 ひしゃげた笑い声は突として消失し、笑いの欠片もない素の顔で宮地の後ろを掻き回し始める。
「ほら、イヤイヤ言いながらもどんどん入る」
「そりゃお前に何度も掘られてりゃ、緩くもなんだろ」
 スっと上げた視線の強さに、宮地は思わず唾液を飲み下す。
「お前? お前、ら、の間違いじゃないんですか?」
 言い捨てて、更に指で掻き回す。何かを確認するように、ある一点を静かに撫でると、そこを執拗に攻め立てる。
「あはっンっ、やめ......桜井んッ......そこダメ、ァァ!」
 表情を確認するとほくそ笑む桜井は、一旦そこから離れ、ベッド下の収納を引き出した。そこに並ぶ長細い物体の数々を値踏みするように凝視し、そのうちの一本を手にした。
「すいません! 今日はちょっといじめたい気分なので、すいません!」


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