ルームシェアフレンズ
18.

 後頭部に両の手を添え、そのまま横たわると、頭上に屋根のごとくせり出た黒っぽい岩がある。長い年月をかけて海水がここを削ったのだと思うと、無意味に思える事柄にだって意味が見いだせる。
「高尾?」
「ん? なんスか」
 こちらに向けられる視線をしっかりと受け取りながら、宮地は続ける。ひとつ、深呼吸をし、それを大袈裟に吐き出して、口を開いた。
「お前と、セフレやめようと思う」
「......」
「これ以上お前のこと傷つけたくねぇし」
「そう、ですか」
 岩場の冷やりとした感触を背に受ける宮地だが、身体は常に発熱しているようで、こめかみの当りが脈動する。停滞した空気は潮風にも動かすことが出来ないのか、重苦しい空気の中で沈黙が渦を巻く。
ーそういう意味じゃねぇって。
 左手を少し斜め前に挙げてみる。指先は微かに震えていた。その震える指を見つめながら、その先にある腕に伸ばすと、触れ、つかみ、引く。その主は驚いた態ですぐに振り向いた。
「何......してるんですか」
 ぐっと引けば、バランスを崩した高尾は岩場に寝そべった。
「何をしてるんですか、宮地さん」
 無言のまま、その手を離さず強く捕まえ、今度は宮地が身を起こす。海風で冷えた彼の手首を掴んだ手はそのままに、彼の身体に跨った。
「宮地さん、さすがに俺だってキレますよ」
 すかさず空いている片手首を掴むと岩場に押さえつけ、角度を付けて高尾の唇に口付ける。顔を背けた高尾の唇を追いかけ、覆いかぶさるように唇で捉えた。
 挿し込む舌すら拒絶され、それでも宮地は上顎を刺激し、歯列を舐め取り、逃げおおせた彼の舌を探しだそうとする。一時も唇を離す事無く、口角から唾液が流れ出ようとも、その唇を離さなかった。
 高尾の手首から、抵抗が抜ける。同時に絡まる舌に、宮地は貪るように吸い付き、頭の中が空っぽになりそうな快感を感じながらキスをし続ける。絡まる唾液の音は近くて、潮の砕ける音などない無音の地にいるような感覚。息する暇も与えない激しいキスの合間に、高尾は大仰な音を立てて息を吸っていた。
「宮地さん、アンタどんだけビッチなんですか。セックスできればいいんですか」
「そうだな」
 言った唇をそのまま首筋まで落とすと、少し汗ばんだそこを強く吸う。一瞬抵抗を見せた高尾も、強い力に捕らえられ動けず、為す術がなかった。
「あぁ、高尾に印付けちゃった」
「マジかんべんして下さい、セフレやめるんでしょ?」
「あぁ、そうだけど」
「じゃぁそこどいて下さい」
「高尾、セックスしたい」
「はぁ?!」
 あから様に怪訝な表情で高尾が訝しめば、宮地は無表情のままで胸元へ顔を移す。高尾はその隙に半身を起こすと宮地の肩をぐいと掴んだ。
「いい加減にしてくださいよ、宮地さん。馬鹿にしてんスか?」
 宮地が肌蹴た高尾の浴衣の合間から見える下着に手を這わせれば高尾は、宮地の肩をずっと強く揺する。それでも宮地は、手を止める事がない。宮地の思考は一向に読めないまま、背中を一直線に駆け抜ける快感に唾を飲む。
 見下ろすように高尾に跨った宮地は、そこを手で弄りながら高尾の顔のあちこちにキスを落とす。いつにも増して丁寧で、愛がこもっているとも思える行動に、高尾は激しく混乱し始めた。
「宮地さん、訳わかんねぇ。俺どうしたらいい? 気持ちいし、嬉しいし、でももうセフレじゃねぇし、俺を困らせないでよ、宮地さん。ねぇ、宮地さん」
 返答はない。あいも変わらず上から浴びせるようなキスの雨を降らせる宮地は、そのうち高尾の下着の中から熱く硬くなった物を取り出していた。
「はぁぁっ......宮地さん、やばいよ。んァッ、俺スゲェ気持ちいのに、今宮地さんとセックス......いあッ......ん」
「セックスする気になったか?」
 高尾は返事の代わりに、肩を捕まえていた手を宮地の首へと掛け、項垂れた。


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