ルームシェアフレンズ
14.

「俺あんまそういう気分じゃねぇんだよ、......ンァ、桜井ィ......」
 狭いベッドに揺られ、深く挿入された舌は不安定で、それを取り逃すまいと桜井は、強い力で吸い寄せようとする。唾液の音。薄暗い部屋。スプリングの揺れ。衣擦れ。
 唇から離れた桜井は、首筋を舌先でつつとなぞりながら、桃色の突起へと辿り着く。先で突けば宮地は跳ねるように反応し、舐めとるようにすれば腰をよじる。その反応を桜井は存分に味わうと、下半身へと移動した。
「あれ、宮地さん、今日は反応悪いですよ?」
 ぺち、ぺちと太ももに叩きつけられるそれに目を遣れば、いつもの反り返りは見る影もなく、しぼんだ風船の如くしなだれている。
「もしかして......すいません! ボクの愛撫なんて飽き飽きですよね、すいません!」
「いや、そういうんじゃねぇけど。あんま乗り気じゃねぇって言ってんじゃん」
 焦りにより自虐性を増す桜井を諌めるように、宮地は言うが、桜井は自分のテクニックのせいだと信じて疑わない。
「じゃ、じゃぁ後ろだったら! 後ろならどうです?」
 言うが早いか何とやら、唾液をタップリと絡めた指を宮地の後ろへ宛てがえば、刺激に慣れたそこはすぐに物欲しそうな液体を垂らす。筈だった。
「宮地さん、全然緩くならない」
「だからぁ、今日はあんまり乗り気じゃねぇんだって」
 反射をつけて上半身を起こせば目の前にある、潤んだ瞳の桜井の髪をひと撫でする。
「お前のせいじゃねぇよ」
「でも......すいません! すいません! 前戯が劣化してすいません!」
 ふふ、と宮地が吹き出したところで、桜井は表情を崩したまま、今にも零れ落ちそうな雫を湛えて宮地を見つめている。
「あのな、何かおかしいと思って色々やってみたんだよ。エロDVD見ながらオナニーしたり、アナニーもしてみたんだけど、全っ然勃起しねぇんだ。あれだ、インポ」
「へ! 宮地さんがインポ!」
「声デケェよ!」
 ここ数日、排泄欲求に従ってオナニーをしても、反応をしなくなった我が性器を、じっと見つめる。いつもなら粘液を垂れ流し物欲しそうにするそこが、随分とドライだ。
「気持ちいかって言われるとまぁ、気持ちいんだけど、なんかこう、気持ちが昂ぶる感じが少ないっつーか、興奮? そういう感じが前よりもないんだよな」
「どーしたんですか、宮地さん」
 しなだれたそこをぺち、ぺちと手で弄びながら桜井は、目尻に残った涙を手の平で拭った。
「このままじゃ困るんだけどな。どーしたらいいんだか」
「バイブ突っ込んでみたらダメですか?」
「ダメ」

 桜井を部屋へと帰し、一人になったベッドに横たわる。月明かりだけが差し込む部屋で一人、考える。
ー高尾となら、或いは......。
 しかしそれを申し出る状況にはないし、そんな理由付けで身体を求める事はさらなる亀裂を生む。
「給料分働けよビッチな股間」
 音声をオフにしたAVをテレビから垂れ流し、何となしにぼうと見つめるが、気持ちの昂ぶりも、生理的な反応も何もなく、ただ虚しく時間が過ぎるだけだった。
ー好きな人じゃないと勃起しない、っていうネタ、見たことあんだよな。
 ネットで目にした掲示板サイトを思い出す。遠距離恋愛でオナニーも射精もできなくなった男が体を壊したという話だった。万に一つも、そういう状況だとして、では自分が求めている人間は誰なのか。
 答えは8割見えているのに、わざと見えないふりをする。サッと目にした害虫を、見なかった事にするように、意気地がない。そこに浮かぶ名前は一つしか無い事を受け入れてしまうと、拒絶された時の反動が強大過ぎて受け入れられない、宮地はそう考え、思考の奥底へその名前を沈めようとする。
ー嘘だろ、身体は正直とか、そういう問題かよ。
 高尾の丁寧で温かい温度を保った愛撫を思い浮かべる。胸の突起に舌を這わせる瞬間に、彼の口から吐出される息が、先行して刺激する。必ず臍にキスをする。まるで儀式のように、反り返った根本に口吻をしてから口に含む。口端から漏れる、彼の声。固い指で後ろを弄られ、それを飲み込んだときの圧力を想像する。そしてそれが、太さを増した時の刺激。
「やっべ、超気持ちい」
 左指を後ろに挿入すれば溶けた蝋のように粘液が流れ出て、反り返ったそこに右手を添えると自然に上下へ扱き始める。先走りが親指の側面へたまり、くちゅと水音を奏でる。
「高尾......たか......お、んァ......イクっ、はぁあっ!」
 不用意な射精で汚れたシーツを、洗濯機に放り込んだ。


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