ルームシェアフレンズ
10.

「さぁ、立って、宮地さん」
 頭上に気を配りながら中腰で立ち上がると、自然とダッシュボードに手を突いて、身体を支える。桜井は宮地の脚を掴むと少し横へと移動させ、もう片足もそれに追随した。
「ちょっと、そのまま」
 シートの隙間を抜け後部座席に移ると桜井は、後ろか宮地の腰に両の手を宛てがう。刹那ビクンと震えた白い下腿に、思わずだらしのない笑みを浮かべた。
「このまま、ゆっくりと膝曲げてください」
 腰を支えながら宮地を下へと促す。「何、何すんの」困惑げでもあり、どこか興奮している感もある宮地の声に「ゆっくりですよ」と重ねた。
「ンッ!な、これ、さく......アッ、何か入った!」
 そこから宮地が抜け出さぬよう腰を支える桜井は、申し訳程度についた脂肪へ手を這わせ、二手に分かれた部分を割り、中を覗き込む。
「しっかり咥えてますね」
「何だよ、これ何だ?」
 混乱気味とも取れる宮地の言動を尻目に、支えた腰を少しずつ上下に動かす。初めはぎこちない動きで桜井の動きに追随していた宮地の腰は、やがて自由にそこを出入りしはじめた。
「アァ......なんか、きも.....チィッ、これ何なんだよ、アマゾンの玩具?」
 その言葉に耳を貸さず桜井は、剥き出しになっていた己の肉塊に手を伸ばす。
「宮地さん、超エロい」
 反り返ってすっかり固さを増したそこを扱き始める。途端ぬるりとした先走りで手の平が濡れた。上下する動きに伴って、ぴちゃと湿った音が響く。それは桜井の手からも、宮地の後ろからも、同様に奏でられる水音だ。
「ふぁンッ!あ、ヒャッ......超イイとこ当たって、アァぁぁヤバイ」
「ハァ、アッ、宮地さん、スゴイ綺麗に飲み込んでる」
 二人の水音はしばらく続き、宮地がその音を割った。
「桜井? イッていい?」
「ボクももう、ダメです......ぐッ、あああっ!」

「目隠し取りますよ」
 宮地の唇に噛み付きながら後頭部の結び目を解く。薄暗い車中が視界に飛び込んでくると真っ先に後部を振り返った宮地は、言葉を失った。
「マジかよ......」
「宮地さん、玩具だけに飽き足らず、サイドブレーキもズボズボ飲み込んでイッちゃうなんて、ホント淫乱ですね」
 僅かに布の跡が凹んだ目元を手の平で覆うと天を仰ぐ。
「あーマジかよー、超恥ずかしい」
「ボクのちんちんの方が欲しかったです?」
「別にぃ」
 快楽を求めて関係を持っている。そこに於いて心地よく楽しむ事こそが重要であり、そこに相手の感情や相手の種別を問うてはならない。宮地はずっとそう思って身体の関係を築いてきた。
 しかし、何かが足りない。それは物を使った行為をしたからではない。何が足りないのか。うまく言葉として脳裏に展開されない感情を、どうにか整理して飲み込もうとするが、容易にいかない。

 黄色から赤に灯った電気信号を視認すると、ゆっくりとブレーキを踏む。す、と落とした視線の先、サイドブレーキの根元には拭き残した液体が街灯を虚しく反射した。
「桜井、俺とこういう事して、楽しい?」
「ええ、楽しいですよ、とても」
「そ」
 ー俺だって楽しい。だけどそれだけじゃ足りない。
 宮地は喉を突ついた言葉を飲み下し、アクセルを踏み込んだ。
 楽しい、気持ちがいい、それだけで満足できていたはずだ。それなのになぜ、あの彼が日々口にしていた言葉が、渦を巻いて脳内を駆け巡るのだろう。薄々感づいている自分の感情を押し殺し、桜井の頬に口付けすることで誤魔化した。


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