0721の日の高尾君から宮地さんへのプレゼント
「あぁッ、んっ、もうだめ、たか――お、死ぬンッ!」
 汗ばんだ二人の肌が、勢いよく破裂音をあげる拍子に、宮地さんの背中は小さく、震える。ごつごつした凹凸に滑らかな白い肌。それが今は、薄紅に染まって、表面に汗を蓄えている。
 少し速度を落とし、ぐっと奥まで挿し込んでみる。出産の呼吸法みたいに長い息を吐いた彼は、再奥まで辿り着いたところで刹那、息を殺す。
「奥、気持ちいいんでしょ? 宮地さん」
 挿し込んだままぐるり腰を旋回させると、どこか苦しそうに声を潰した宮地さんの呻きが、小さく耳に届く。
「宮地さんのカワイイ声、もっと聴かせてよ、ねぇ」
 再び速度を上げ、先よりも数段勢いづいて腰をぶつければ、触れ合った肌からは見えない程微細な汗の雫が散らばって、ベッドライトの小さな光でキラキラと輝いて見えた。それが余りにも場違いで、自らがしている行為の汚らわしさを見せつけられるようで、思わず目を瞑る。
 腰のあたりから立ち上る快感が、光として感じられる位、目を瞑ると感覚が研ぎ澄まされる。
「んぁ、たかお? もう、イクからアァツ――んぐっ、やばすぎだってッ――」
 彼が果てる瞬間は特徴的で、上り詰める途中に腰を「く」の字に曲げる。挿入しているこっちの感覚までおかしくなって、思わず声を詰めた。
「アァァ! イク! たかおイっちゃう!」
 ぐっと腰が持ち上がる。その刹那、ゆっくりと腰を引いた。それまで激しくなる一方だった彼の吐息が、「あぇ?」間の抜けた声と共に緩んでいく。
「た、かお?」
「おあずけ」
「は?」
 膝立ちになった彼のそこは未だ張りつめて頭を擡げている。枕元のティッシュで先を拭ってやって、呆けたような彼の口に、触れるだけのキスをした。
「高尾、高尾ってば」
「最後までしたかったですか?」
「だってお前、あのタイミングで普通......ねぇだろ」
 ベッドからおりると、背後で彼がベッドに身を沈める音を耳にした。不貞寝といったところだろうか。荷物置きになった、無駄にふかふかのソファ。黒いボストンバッグの中から、数本を取り出すと宮地さんに向き直る。
「だって言ってたじゃないッスか。俺じゃないとイケないって」
「......ん、そ。恥ずかしいからやめろ」
 一旦白を取り戻していた肌が再び朱に染まる途端、抱きしめたい衝動に駆られる。
「だから、俺の可愛い恋人ちゃんが、俺がいない時におちん〇ん爆発しそうになって困らない様に、一人でも遊べるように訓練、しよっかなーって、ね」
 再びベッドに乗ると、スプリングが傾いて、宮地さんが僅かに揺れる。彼の足元に数本を捨て置いて彼の元に飛び込むと、横臥する彼を腹這いにさせ、美しい筋肉のラインが映える背中に少しずつ、吸い付く。少しの汗と、少しの唾液が入り乱れて、くちゅと小さく音が鳴った。
 でっぱりの目立つ両手首を掴むと、それを背に回す。持って来た梱包用のロープで手早く手首を縛りあげると、異変に気づいた宮地さんが何か言いながら身動きを取ろうとしたけれど、後の祭りだ。
「何してんの――」
「サービス」
 そう言って、身動きがとり難くなった彼を、仰向けに転がした。
 自由になった足首にも紐を縛り、太腿に縛り付けた。食い込む安っぽい紐が、妙に艶めかしく映る。
「ちょ、これ、丸見えじゃねーか!」
「まぁまぁまぁ、この角度が一番それっぽくてイイっすよ」
 適当にお茶を濁し、数本のアナル用バイブを目の前にちらつかせた。
「何色がいいッスか?」
「いらねぇよ、んなもん。紐解け」
 手足の自由を奪われてバタつこうにもバタつけない宮地さんの口元に、バイブを突っ込んでみる。
「ンぐっ!」
 顰めた顔は、少し本気のお怒りモードで、俺はこんな所で痴話喧嘩をするつもりもないから、すぐに口からそれを外すと、お得意のヘラリ顔を見せる。
「宮地さんだったらぁ、そうだ、このクリアイエローがいいじゃないっすか! 宮地さんと言えばこの色だと思って買ったんですよ、超いいお値段したんですからね」
「頼んでねーし!」
 わざと拭わないでおいた彼の後孔は、未だ少し照りを残していて、中はきっと依然として暖かくて、湿っていて、きっと待っている。
 ローションを塗った先端を、入口を広げるみたいに動かしてみる。ブラックホールみたいに向こうが見えない孔から、ちょっと水っぽい音が耳に届く程度でも、俺の股間までもが一気に反応した。
「入れちゃいますね」
 腹圧で押し返されるのも気にせず、ぐっと力を与えて挿入すれば、見たことも無い程に真っ赤になって、顔を引き攣らせている俺の恋人が、涙を浮かべて俺をじっと見つめていた。今すぐにでも、繋がりたい衝動。それをぐっと抑えて、スイッチを入れた。
「ひゃぁっ! んんんァ、や、ちょっ――かハァ......ッ!!!」
 随分な好反応に驚きつつ、もうちょっと奥に、バイブを押し込んでみる。前立腺にしっかり届く形になっているものだから、きっと位置取りがポイントなのだろう。
「あぅんっ――あぁァ......くぅうっ、たかおぉぉ、ぬけってんぁっ!!」
 少し覗く黄色のバイブが、ひく、ひくと時折動いて、同期するように脚が震えている。
 自重を知らない彼の声が、少しずつ大きくなってくると、いよいよ自分も我慢の限界を越えそうで、少し離れた所から彼の痴態を眺めつつ、自分の物を弄る事にした。

「どうすかぁ、宮地さん。んはぁっ、俺もう興奮してきちゃったんで俺は俺でしますけどー」
「はぁぁっ――んくっ! 何か、ンンっ、きもちい」
 黄色の後端が、ヒクつく動物みたいで何だか艶めかしくて、目を瞑って目尻から涙を流す宮地さんは妖艶で、口元から滴る涎はこっちが可笑しくなりそうなほど淫らで、あぁ、彼がいれば俺の性欲なんていくらでもどうにでもなっちゃうな、なんて思う。
「宮地さん、前も一緒に弄ると、もっと気持ちいですよ? 俺いつ両方攻めてるっしょ?」
 薄ら目を開いた宮地さんは、ちらとこちらに濡れた瞳を寄越すと、長い睫毛と共に伏せ、「手」一言呟いた。
「あ、手ぇ塞がってんのか。じぁ、後ろを替えましょう」
 宮地さんの足元に待機させていたうちの一番動きが激しい一本にローションを塗りたくり、入れ替わりに挿入する。スイッチを入れた途端、宮地さんの様子が急変した。
「あぁぁァァァ!! たかおぉとめ、んんくっ――とめてたかお、ねぇだめ! だめ!」
 ぶらり揺れていた筈のつま先がピンと伸びて、痙攣を始めている。
 蕩けるような顔は上気して、瞳からは透明な筋が二つ伸び、口角からだらしのない液体が顎を伝う。乱れた娼婦のような高い声で下肢を痙攣させる彼は性的以外の何物でもなく、俺は右手を忙しなく動かした。べっとりと、右手を濡らす、自らの体液。こんなに溢れたのは、初めてかも知れない。宮地さんの先端からも、湧き出るように溢れる透明な体液が、腹の辺りに水溜りを作り、ベッドライトを反射していた。
「アッ! たかお、ねぇやばい――ってッ、おもちゃでイクとかいやっ、だ――」
 限界が近いらしいトロ顔の宮地さんは、そのうち眉間にしわを寄せ、喘ぎ声が俄かに苦しそうな息遣いへと移行していく。そろそろ、近い。
「んはぁぁぁッ......ダメ、あ、あ、イク、んぐっうううううう――ああぁぁぁぁぁ!!!!」
 水鉄砲みたいに一直線に吐精された体液は、ぼた、と彼の腹部やシーツを濡らし、その間も宮地さんの身体は、びく、びくと揺れている。疲れ切った表情に、はちみつ色の髪が傾れて、色気を増す。
 手を伸ばし、ぬるついたバイブの電源を切った。すっと引き出したそれが纏うのは、ローションなのか、それとも。
 ブラックホールみたいに開いた後孔を気休め程度に触れると、紐が食い込んだ脚で一発、蹴りを食らった。
 全ての紐を解いてやり、力なく突っ伏す宮地さんの髪を、数度梳く。薄暗くても輝いて見えるその髪に、ひとつくちづけを落とした。
「宮地さん、一人でイったじゃないっすか。 これからは俺がいなくたって自宅でオナニーできますね」
 そう言って彼の傍に横たわった。未だに息を荒く吐出している彼は、そっぽでも向いてむくれるんだろうと半ば予想ていたのだが。
 こちらに身体を向けると、予想に反して俺の胸に顔を埋めた。抱き寄せ、背を擦る、俺よりもずっと背の高い彼を、子供をあやすようにして、静かに静かに、背を擦る
。  すん、と一つ鼻を鳴らした宮地さんは、背に回した腕の力を強めると、長い脚を俺の身体に絡ませ、一層密着した。随分と高い体温が、俺の下肢に沁みてくる。
 高い鼻が、胸の辺りにぴたと触れ、その下に、柔らかい唇を感じる。その唇が、俺の身体をすっと撫でた。

「高尾じゃなきゃ、嫌だ」